松尾豊氏が語るー人工知能と共存する未来は教育が大きく変わる#02

2017.1.19

人工知能分野の第一人者である東京大学特任准教授の松尾豊氏に聞く「人工知能との共生」について。
前回は、人工知能が本格的に浸透したあとに訪れるであろう、「大企業にあまりひとが要らなくなり、起業家が増える」「言語の違いがコミュニケーションの障壁ではなくなる」、近未来の社会の姿が語られた。

変わる社会、変わらない教育

渡辺健太郎(以下、渡辺):前回お話しした「社会の変化」に、特に次世代のひとたちが対応できるよう、「教育」を変えていく必要があると思います。

いま、職業訓練的な教育はあるけれど、それは既存の仕事に適用できるようになるための教育であって、そういった仕事がなくなった将来に生まれる新しい仕事に適応するための能力を育むものではない。

松尾豊(以下、松尾):同感です。日本の教育は、戦後からあまり変わってはいない。
これからの社会の変化にきちんと適応できる人材を育てる必要があると思います。

例えば、日本で不足しているデータサイエンティストや機械学習、ディープラーニングの技術者。

渡辺:まさに。一変、もしくは多くのひとは気づかないくらいじわじわと社会を変化させるテクノロジーの進化するスピードと、教育の変化するスピードとの間にギャップがありすぎますね。

松尾:一方で、変化に備えてどのような能力を身につけるべきかを予測するのは難しいのです。
前回お話ししたように、これから経営者の数が増えるのであれば、人間はより他人のニーズを理解する能力が求められるようになります。

ですが、そのためにはなにが必要か、正確に予測するのはとても難しい。

渡辺:なるほど。

松尾:教育から派生して、「子育て」もそうです。これまで何年、何世代にも渡って子育てをしてきたのに、「必勝法」というものが見つかっていない。

渡辺:なぜでしょう?

松尾:教育も子育ても、「すべては裏表」だからではないかと思います。
親が子供に勉強を丁寧に教えてあげると、子供の学力は上がるかもしれないけれど、逆に自分で考える力は弱くなってしまう。

かといって今度は放っておくと、学力が落ちてしまう可能性がある。

渡辺:なにかをやっても、やらなくても、結局どちらかに転んでしまうので、どちらが本当に良い選択なのかが分からないということですね。

松尾:そうなんです。しかしそれでも、唯一言えるのは、「武器は身につけたほうが良い」ということ。知識やスキルを身につけることは、必ずや自分の力になる。

人工知能との共存が当たり前の未来ーー求められるのは「人間の動物的本能」を呼び覚ます教育(第2回)松尾豊氏

コントロールされたハングリーさが鍵

渡辺:先生はどのような教育がこれから求められると思いますか?

松尾:人間は、「知能」と「生命」が合わさってできているものです。
知能というのは問題解決の仕方、生命というのは「自分の子孫を残したい」「仲間を守りたい」といった動物的な本能にもとづいた目的のこと。

僕は、「生命力を高める教育」が大切なのではないかと思っています。

渡辺:なるほど。

松尾:社会で活躍しているひとと対峙すると、「生命力が高い」と感じることが多いのです。
知能が高いというというよりも、「自分がこれをしたい」という思いやバイタリティが強いひとが多い。
シンガポールなど東南アジアの学生に対しても、そう感じます。
東大生の方が賢いかもしれないけれど、「生き抜いてやる」「成功してやる」みたいなやる気がすごい。

渡辺:分かります。

松尾:日本人はそれが弱い。こういった、「ハングリー精神」を強くする教育があってもいいのではないでしょうか。

渡辺:たしかにアジアのひとたちは、本当にエネルギーがありますね。
「高度経済成長期の日本ってこんな感じだったのか」と思うほど。
先生がおっしゃっていた「経営者が増える世界」では、そのようなひとのほうが間違いなく活躍しますよね。

松尾:そうなんです。しかし、生命力を高めるためには、「欠乏」や「危ない目」に遭うなど、「命を脅かされるような経験」をすることがすごく重要になってくるんですよね。

渡辺:先述の「子育ての裏表」の話につながりますね。

松尾:はい。実際に子供を危ない目にあわせると生命力は高まる。
けれども、怪我をしたり、死んでしまうリスクがある。
やはり親心としては、「子供を大事に育てたい」「危ない目に遭わせたくない」ので、そうはさせないでしょう。

渡辺:たしかに賢くなって豊かになった反面、活力みたいなものが失われていくというのはあるかもしれません。

松尾:ジェットコースターに乗っているときのように、「本当は危なくない」のと「危ない感じがする」のバランスを上手くとることができれば一番良いと思うのですが。「コントロールされたハングリーさ」とも表せるような。

渡辺:これからの重要なキーワードになりそうですね。

人工知能との共存が当たり前の未来ーー求められるのは「人間の動物的本能」を呼び覚ます教育(第2回)渡辺健太郎氏

東京に虎を放したほうがいい

松尾:ある対談でも冗談で、「東京に虎を放したほうがいいのではないか」と言ったことがあります。

渡辺:といいますと?

松尾:ふと夜中にコンビニにお菓子を買いに行って、もしも入り口に虎が居たら焦りますよね。
虎は見た目の割に襲ったりしないかもしれませんが、自分の身を守るために「筋トレをしないといけない」という危機感を持つかもしれない。
自分のなかに隠れていた「ハングリーさ」や「生きないといけないという意志」の萌芽につながるのではないでしょうか。

虎は冗談ですが、海外留学する大きな効果は、誰も守ってくれないなかで、身の危険を感じるという原始的な体験から生活がスタートすることではないかとも思います。

渡辺:おもしろいですね。そういった本能的に危機感を感じることの有効性が、食の分野でも出ています。

例えば、「食事は1日3食」という定説が崩れ始めていて、食事をしない「ファスティング」をして故意的に欠乏状態を生み出し、それが若返りにつながるというような。

松尾:なるほど。

渡辺:そうすることでパフォーマンスが上がるし、より長生きできる。
つまり、これまで考えられた「安全であれば長生きする」とは逆の現象が起きているということなのです。

今後もしかしたら、「安全すぎると老化は早まる」という科学的統計さえも出てくるかもしれません。

松尾:大企業の創業者などの話を聞くと、やはり幼少期に死にそうなひどい目に遭ったひとが多い。本能的に「ヤバい」と感じた経験が、「頑張らないといけない」「上に行かないといけない」という意欲が湧き出たせていると思います。

最終回となる次回は、ずばり、「人間のこれからの生き方」について二人が語る。「ひとはなぜ生きているのか?」、その問いに対する答えも、これから変化していく。

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人工知能と共存する未来ーー求められるのは「人間の動物的本能」を呼び覚ます教育(第2回)

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