病気になってから治す から 病気を防ぐへ「予防医学」の可能性

2017.1.18

近年、ヨーロッパの先進諸国やアメリカを中心に、従来の西洋医療への偏りが見直されている。そのオルタナティブな存在として注目を集めているのは、疾病に対する治療を施す西洋医療とは異なり疾病の原因を正す「予防医療」。そして、その予防医療を含む代替医療と西洋医療を組み合わせた「統合医療」である。

予防医学の重要性

統合医療を推進し、デイビッド・ウォルフ氏の著書『スーパーフード』の医学監修も務めた医師の山本竜隆氏いわく、自分を取り囲む環境を見直すこと、身体や民族性に合った食事をバランスよく摂取することが本当の健康につながるという。

その真意、また日本の統合医療の第一人者として、今後の日本の医療をどのように捉えているのか話を伺った。

日本の統合医療の第一人者 山本竜隆医師日本の統合医療の第一人者 山本竜隆医師

富士山の麓で治癒・養生する滞在型の統合医療とは

統合医療の提唱者であるアンドルー・ワイル博士が定義するところでは、統合医療は病気に対して治療を施すことではなく、健康と治癒・養生に力点を置いている。

なぜ「統合」なのか。

西洋医療以外は代替医療と呼ばれるが、それには中国医療やアーユルヴェーダなどの東洋医療、自然医療なども含まれる。これらを全て西洋医療と統合し、それぞれの特性を活かして各患者に合った「コーディネートされた医療」を提供しようとしているからだ。

統合医療がアプローチしようとする疾病の原因はさまざま。健康というものはそのひと個人の食生活や習慣などのライフスタイルや、取り巻く職場や家族といった人間関係など、いろいろな要素がバランスを取ることで維持される。

変化が激しい現代、そのバランスを見直すことはますます重要。山本医師は、ライフスタイルを見直し、疾病の原因を断つためには自らの身を置いている「環境」そのものを見直すことが必要不可欠だと言う。

山本医師は、自然豊かな静岡県の朝霧高原にある「朝霧診療所」を中心としたグループで統合医療を提供している。特徴的なのは、地域自然遺産を活かした「滞在型養生医療」だ。

朝霧高原診療所は木造建築で診療中も木の香りが漂う朝霧高原診療所は木造建築で診療中も木の香りが漂う
この滞在型養生医療は、主に健康増進を目的としており、診療所の他に自然を感じる「静」の静養園、自然を体感して遊ぶ「動」の日月倶楽部などの施設がある。当施設が位置する静岡には富士山をはじめ、わさび農園や茶畑など自然が充実している。

患者はここで健康を取り戻す。

静養園では五感で自然を体感できる静養園では五感で自然を体感できる

日月倶楽部では能やヨガなどのイベントが開催される日月倶楽部では能やヨガなどのイベントが開催される

ここでは身近な医療機関がある環境の良い町に住むほうが良いという考えに基づき、環境医学、公衆衛生学を重視する地域医療・予防医療が提供される。皮膚科・小児科の一般診療と漢方や食養生などの東洋医学、ハーブやホメオパシー、アロマセラピーなどの代替医療、さらに地域の恵みを活かした森林ヨガや呼吸法などの自然環境療法も提供される。

最近は、世界的観光資源と健康増進のためにわざわざ海外から訪れるひとも増えているという。利用者は豊かな自然に囲まれながら時間を過ごすことにより身体が癒され、心身ともに回復していくそうだ。

山本医師は、健康を増進するためには自然との関わりが非常に重要だと言う。アメリカのリチャード・ルーブ医師も、著書『あなたの子供には自然が足りない』の中で「自然欠乏障害」という概念を提唱している。

自然欠乏障害を解消することを目的としたトレッキングコース 初夏自然欠乏障害を解消することを目的としたトレッキングコース 初夏

自然欠乏障害を解消することを目的としたトレッキングコース 秋自然欠乏障害を解消することを目的としたトレッキングコース 秋

ひとは歴史上、自然と深く関わりながら生活してきた。太陽や月のリズム、四季の変化、全て自然素材の食材と衣服で、人工音とは無縁の生活様式で暮らしてきた。しかし、そんな生活がこのたった数十年で一変してしまった。

朝霧診療所の近くにある白糸の滝や陣馬の滝で自然に触れられる朝霧診療所の近くにある白糸の滝や陣馬の滝で自然に触れられる

科学的根拠と経験的根拠とをあわせ持って食を選ぼう

山本医師は、推進する統合医療の中でも食を重要視している。特に身体や民族性に合った食事を取り入れることを患者に薦める。

同氏の著書『食べもので「体の不調」を治す本』によれば、日本人は昔1日2食だったそうだ。それに沿って山本医師は現在も朝食と夕食の1日2食にしている。昼食を食べてしまうと眠くなってしまうことがあるため抜いている。自分の身体との相性に合わせた献立で食事をするようにしている。

また「身体と環境は別々とはいえない」ことを意味する「身土不二(しんとふじ)」という言葉があるように、その人が生まれ育った場所の食べ物をベースにした食生活を送ることが望ましいそうだ。漢方医でもある山本医師は、朝霧診療所の養生医療施設の日月倶楽部で、施設利用者の身体に合った漢方茶を調合し提供している。

日系欧米人には糖尿病が多いという説があるが、それは何千年にも渡って農耕民族だった日本人が北米大陸の肉中心の食生活に急変したためだと考えられている。このことからも、昔から祖先によって食べられてきた食事を取り入れることが疾病を防ぐ一要因となることが分かるだろう。
しかし摂取する食べ物の選定において、もっとも重要なことは、効果・効能ではなく、そもそも身体に有害性がないということ。その観点からも、山本医師は西洋医療に依存することの危うさを訴える。

「西洋医療で処方される薬品は化学物質。何千人〜何万人を対象に実験し効果・効能を検証して科学的根拠があったとしても、10年しか実験していなければ30年後にも悪影響が出ないかは分からない。一方で、漢方は科学的根拠がないとけん制されてきた過去があるが、草や根っこなどの食べ物が原料で3000年、少なくとも数百年といった長い期間にわたって経験的に食べられてきた。科学的根拠と経験的根拠とをあわせ持って食べ物を選ぶ必要がある」

それでは、自身が監修も務めた著書で紹介されている「スーパーフード」はどうだろうか。そもそもスーパーフードとは、著しく特定の栄養価が高い食べ物のことを指す。キヌアやチアシード、ココナッツオイルなど、欧米の著名人も生活に取り入れていることで話題になり、日本でも普及しつつあるのだが。

「いま注目されているスーパーフードは、主にアングロサクソン系、つまり西洋の人々が食している物が中心。全人類にとって共通して健康的な食材はあるはずなので、参考にするのは非常によいこと。一方で、アングロサクソン系の人々は我々とアイデンティティも、歴史的に食べてきたものも異なる。よって、西洋由来の食材と、日本人が古来から食べてきた食材をバランスよく取り入れることが必要かもしれない」

日本の医療を変えるのは潜在的患者の意識の「バージョンアップ」

ただ、山本医師が推し進める自然を活かした統合医療を日本で普及させるのには課題が多いのが現状。医療を受ける私たちも、意識を「バージョンアップ」させる必要がある。

アメリカでは疾病に対して治療を施す西洋医療を中心に医療システムが構築されてきた。一方、ヨーロッパでは伝統的に自然や地域を活かした医療が重んじられ、予防医療が研究されてきた。日本では、主にアメリカ型の医療システムが発展したため、病気になって初めて医療サービスが享受できるのが一般的である。

戦前はヨーロッパに医師が留学するケースが多く見られたが、最近医学生が留学先としてもっとも選択する国はアメリカ。同国は最先端治療技術を学ぶのには最適な環境だが、自然医療などの代替医療モデルに触れる機会が極めて少ない。そのため、統合医療を推進できる医師が日本には少ないのが現状だ。

しかし日本には、統合医療に力を入れるべき理由がある。日本では全国民が一般的な医療サービスを受けられる健康保険があるが、それが崩壊する危機にあることが以前から懸念されている。

年々高齢者が増え、保険を使うひとは増えているのに、財源となる保険料を支払う人口は減っている。円安が進むことや、BRICsなどの国々が資金力を持ち、大手製薬会社を買収することで医薬品や医療器具が高騰し、国民健康保険の財源をさらに圧迫させる可能性も考えられる。

そうした状況に対して、統合医療が普及し疾病をそもそも予防することができれば、それは財源の圧迫を緩和できることを表す。私たちも「病気になってから治す」医療から「病気を防ぐ」医療へと視点を変えなければならない。

これから都市部は、医師過剰時代に突入する。医師が都市部に集中し、都市部では医師過剰、地方では医師不足という不均衡が発生する。そのため、医師が地方でも採算性のある医療を実現する必要がある。自然を活かした統合医療はその手段にもなり得るのだ。

陣馬の滝近くの水をくみに来る地元民も多い陣馬の滝近くの水をくみに来る地元民も多い

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予防医学

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