人工知能の進化で二極化する世界 日本の行方は#03

2017.2.6

「人工知能と仕事」をテーマに、技術的失業を専門とする駒沢大学経済学部の井上智洋氏が3回連続で語る。第3回は「世界経済の二極化」について。

直線的に伸びる国、曲線的に伸びる国への大分岐

第1回では、2030年頃と予測される汎用人工知能、それを搭載した汎用ロボットの出現が、ある特定の職種の人たちではなく、”普通の人” たちの技術的失業を引き起こすプロセスが明らかに。

前回は、その技術的失業が起こるプロセスにおいて、人間はどのように抵抗し、新しい仕事を見つけていくべきか。
さらにその過渡期を経て、人工知能と共存する社会はどのようなかたちに落ち着いていくのかを探った。

最終回の今回は「世界経済の二極化」について。人工知能時代にイニシアティブを握れる国とそうでない国を分かつものはなにか。
日本がこれからも先進国でいられるために必要なアクションはなにか、深掘りしていく。

訪れる世界の二極化

2030年以降に登場するであろう汎用人工知能の開発にいち早く取り組んだ国とそうでない国とで、世界経済は二極化します。汎用人工知能によって経済構造が根本から変わるからです。

今の経済構造は、「資本」と「労働」をセットでインプットして、生産物をアウトプットするというもの。しかし、人間と似たような知性をもち、振る舞いができる汎用人工知能が登場すると、労働が要らなくなります。この新しい経済構造を「純粋機械化経済」と呼んでいます。

井上先生3
先日、私のゼミ生が山梨県にあるファナックの工場を見学しに行ったのですが、そこではロボットがロボットを作っていたそうです。その工程をマネジメントしている人はいるものの、かぎりなく少ない。つまり、純粋機械化経済になると極度にオートメーションが進んでいくのです。ホワイトカラーの仕事なら中間管理職が要らなくなるでしょう。

このように経済構造が変わると、経済成長率自体が曲線的に成長していきます。一般的に先進国ではGDPの「額」が毎年1〜2%成長していますが、それに対して純粋ロボット経済においては、経済成長の「率」が高まっていくからです。

なぜそうなるのか。
これまでの機械化経済では、人間と機械の両方を増やさないと、生産を増やすことはできませんでした。

たとえば、スーパーマーケットでレジとレジ係りの人がいて、レジだけを増やしても捌けるお客さんの数はそれほど増えない。レジ係りの人数を変えずにレジの台数を3倍増やしたからといって、捌けるお客さんの数は3倍にはなりません。

しかし、すべてセルフレジになると労働が要らなくなり、レジを3倍に増やすと、捌けるお客さんの数が3倍になります。すべての産業がセルフレジばかりのスーパーのようになった経済が、純粋機械化経済だと思ってください。

この経済では、セルフレジのような労働者いらずの機械が商品を生産し、またセルフレジのような機械自体が労働者いらずの機械によって作られます。
ファナックの工場のような、ロボットがロボットを作っている無人工場をイメージしてください。

しかも、これまでの資本主義経済と同様に技術が絶えず進歩しているので、機械が商品を作り出す効率性も、機械が機械を作る効率性も年々高まっていきます。そうすると、作られ得る商品の生産量が一定率で増大していくのではなく、増大率自体が曲線的に上昇していくことになります。

2030年を目処に純粋機械化経済に移行できるかできないか、つまり汎用人工知能を開発、導入できるかできないかによって、世界経済は二極化するでしょう。これを「第二の大分岐」と呼びます。導入しなければ今まで通り一定率でしか成長できず、さらに悪いことに導入した国の食い物にされることもあり得ます。

井上先生3

分かれ目は「頭脳資本主義」を受け入れられるか否か

第二の大分岐以降、爆発的に成長する先進国になれるか否かは、「頭脳資本主義」へと移行できるかにかかっています。頭脳資本主義とは、たとえビジネスにはなっていなかったとしても、そのポテンシャルを秘めた頭脳やアイデアに対してお金を払う性格をもった経済のこと。

人工知能の最新動向に詳しい神戸大学名誉教授の松田卓也先生は、日本が頭脳資本主義になっていないがために、特に人工知能の開発においてアメリカやヨーロッパに後れをとっていると嘆いておられました。

アメリカでは、「AlphaGo」を開発したDeepmind社のデミス・ハサビスは、具体的なビジネスで収益を上げているわけではありません。しかし、人工知能の研究をしているだけで億万長者、人工知能界のロックスターになっています。

一方、残念ながら日本では、あまり頭脳やアイデアがお金になっている感じがしません。頭脳やアイデアを金銭的に評価するという文化があまりありませんし、だから若い人たちが、「今研究者になっても見込みがなさそう」と研究者を目指さなくなる。
しかしその研究こそが、純粋機械化経済時代の主戦場なのです。

事実、今すでに日本のIT市場は、Twitter、Skype、Facebookなどに席巻され、自国のサービスはあまり目立っていない。
純粋機械化経済においても、ビジネスの美味しいところは、すべて汎用人工知能を開発した、新たな時代の先進国にもって行かれてしまうのです。
すると、GDPはまだしも、GNP、つまり国民一人あたりの総生産、所得が減ってしまうかもしれません。

すると最悪、日本人の労働者は食えなくなり、無人の工場を所有しているアメリカ人の資本家だけが莫大に儲けて、スーパースター労働者は全員アメリカ人の研究者という状況もありえます。

おそらく多くの人が、「世界経済が二極化することはない」と思うでしょう。
しかし、世界はすでに一度、「第一の大分岐」を経験しているのです。
1760〜1830年のイギリスで第一次産業革命が起きました。その機械化の波に欧米諸国は乗り、富を得た。
一方、日本を除くアジア、中南米諸国、アフリカは食い物にされ、軍事的、経済的搾取を受けてきた歴史があります。
それと同じようなことが、2030年以降に起こるかもしれません。

ベーシックインカムの導入で「機械と競争しない」生き方も

そのように二極化する時代を前に、個人にはどのような生き方があるのか。
選択肢は二つです。

一つは、機械との競争に打ち勝とうとするタフな生き方か
もう一つはベーシックインカムでのんびりと暮らすか

どちらの価値観も否定されるべきものではありません。

私はむしろ、多くの人は無理せずのんびり暮らせばいいと思っています。
優秀な人工知能の研究者の元にお金を集めて、政府が雑務を担うアシスタントを派遣し、彼らには研究に専念してもらう。
今の日本の研究者は雑務が多すぎて、お金も足りないのが現状です。
彼らに時間とお金を与えて、それによって国が飛躍的に伸びる。その恩恵は巡りめぐってのんびり暮らす人にももたらされるでしょう。

重要なのは、チャレンジしたい人はチャレンジできるように、のんびり暮らしたい人はのんびりできるように選べること。今の日本は研究者などチャレンジしたい人がチェレンジできず、のんびり暮らしたい人がのんびりできないような状況にあると感じます。

ただし、人びとがチャレンジングな生き方か、のんびりな生き方か、どちらか好きなほうを選べるようにするためには、汎用人工知能と両輪の関係にある「ベーシックインカム」を実現することが必要です。
ベーシックインカムのようなセーフティーネットがないと、
「ジョブウォー」と私が呼んでいる人間が仕事を奪い合うバトルロワイアルが起こってしまいます。

第二回で述べた、これからも残る「C・M・H」の仕事のうち、C=クリエイティビティーの仕事で食えるのはほんの一部の人。人工知能をM=マネジメントする仕事も、残りこそはするもののやはり数は少ない。
だからH=ホスピタリティーの仕事がもっとも可能性があるように思いますが、それでも誰かを養えるほど稼ぐのは簡単ではありません。
ですからセーフティーネットとしてのベーシックインカムは不可欠です。

ベーシックインカムがないと、社会は先ほどのバトルロワイアル状態になり、街の治安は悪化します。
高所得者が暮らす街には、かぎられた人だけのために守られた
「ゲーテッドコミュニティー」のようなものも生まれるでしょう。

ちなみに、東京各区の平均所得は、港区が圧倒的一位で、最下位の区はその約3分の1です。
東京ではすでに所得による棲み分けが為されており、金持ちは金持ちだけで固まって暮らす傾向があります。

経済構造の変化によって激変した後の社会の在り方について各人が議論を始め、今から備えましょう。
そして、汎用型人工知能など素晴らしいものを作った人は讃えられ、そうでないのんびり暮らす生き方も人びとから受け入れられるような社会を目指すべきだと思います。

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