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ロボットか人間か、あなたはどちらを雇いますか?

「技術的失業」が専門の駒沢大学の井上智洋氏と、『Catalyst』監修役の渡辺健太郎が対談。三回連続でお届けする第二回は、人工知能による人間の雇用崩壊後に訪れる「はたらかなくていい世界観」がテーマ。

「ロボット以上なら採用」という足切りライン

井上:渡辺さんは会社の経営者ですが、「ロボットか人間か、どちらを雇いますか?」と聞かれたらなんと答えますか。

渡辺:「教育コスト」という言葉があるじゃないですか。それがかかる人とかからない人とではかなりの差があります。その微妙なゾーンにいる人を採用するくらいなら、「ロボットを採用するほうがいい」となるかもしれません。

井上:なぜでしょう。

渡辺:人間よりもロボットのほうが、担保されるパフォーマンスの質と量のラインが明確だからです。「ロボット以上なら採用」みたいな、足切りラインができるんじゃないでしょうか。なかにはマニュアル的な仕事しかできない人もいると思うんです。そういう人は厳しいかもしれない。特にIT業界は頭数というよりその人個人の能力によってパフォーマンスは数倍、天才と言われるエンジニアだと数千倍くらい違うので。給与はそこまで差がないですけど。

井上:人間だと、厚生年金を会社が半分もたないといけないとか負担もありますし。

渡辺:「ロボット税」とかできるでしょうね。

井上:それはあり得る。今の価値観がしばらく続くならば、人びとが遊んで暮らせるようになることよりも、雇用を確保しようと社会全体が考え、政治家もそのように動く。人間の雇用だけに厚生年金のような負担があると人間に不利だから、ロボットの雇用にもロボット税を掛けて、人間が機械との価格競争に負けないようにするかしれません。他方で、それでもどうしても機械との競争に負ける人が出てきてしまうので、そういう人たちの生活を保証するためにはベーシックインカムが必要不可欠になります。その財源をロボット税の税収でまかなえばいいと主張する人もいます。

渡辺:海外で法人を設立すると、「外国人を採用するためには、ローカルの人を何人採用しないといけません」とかありますよね。そんな感じで、「ロボットを2人雇いたいなら、人間を何人、いくらその人たちが微妙でも雇わないといけない」とかなるかもしれません。

今のような非人間的な雇用なら、崩壊していい

井上:今の政府は、ベーシックインカムの導入よりも、人びとの雇用を守ろうとすると思います。しかし徐々に、「人間は、かならずしもはたらかなくてもいいんじゃないか」、政府だって「みんなお金あげますから、遊んでいていいですよ」と、徐々に価値観が変わってくると思います。そうならざるを得なくなりますから。

渡辺:僕は田舎出身で親が自営業だったので、「会社」とか「会社に行く」ということ自体、20歳になるくらいまでよくわかっていなかったんです。魚屋とかパン屋とかならわかっていましたけど。だから、『サザエさん』のマスオさんが「なんとか商事」に毎日電車で通勤する、あの「ホワイトカラー」の感じがわからなかったんです。

井上:ホワイトカラーの仕事というのは基本的に情報の流れを制御するもので、都市部に集中しています。そしてそういうホワイトカラーの仕事が、情報技術、これからは人工知能に侵食されていく。だから、「人工知能によって仕事が失くなる」というので、都会で暮らす人たちが慌てている。「ホワイトカラーの危機」というやつですね。

渡辺:なるほど、「ホワイトカラーの仕事は昔からあったわけではない」と。そう言われると、なんだか安心しますね。「ホワイトカラーの仕事なんてつい最近に発明されたものなんだから、機械に置き換えられて失くなったとしても決して悪いことではない」と。「元々なかったんだから」と言われると、急に怖くなくなります。ところで、ホワイトカラーっていつ頃生まれたのでしょうか?

井上:昔はホワイトカラーって、会社の経営者とかほんの一握りだったんです。それが、直接生産活動に携わらない銀行員や証券マンの仕事が増えたり、企業組織が複雑になるにつれて、経理や人事などの間接部門が拡充したりして、ホワイトカラーの割合が増えました。

渡辺:1950年代を舞台にした映画では、「スーツを着たサラリーマンが、同じ時間に満員電車に乗り込んで通勤する姿」というのはネガティブに描かれていました。それが、今では当たり前のようになっている。悪夢のような今の状況も、ロボット革命で開放されるかもしれません。

井上:僕自身は会社勤めではありませんが、駒沢大学に通うために毎日渋谷駅を利用します。朝は駅の構内がものすごく混んでいて、なかなかホームにたどり着かないのでイライラする。僕の乗っている電車自体はそんなに混みませんが、多くの人が満員電車に毎日一時間ばかり揺られて疲弊している。こうした通勤ラッシュという「非人間的」なことをやっていると、「これは何なんだろう」と思いますよね。そのせいで、会社員の方の体力の何割かが費やされてしまうわけですし。

渡辺:無駄どころか「マイナス」ですね。

井上:もう少し楽しいことに頭も体も使ったほうがいいんじゃないかなと思います。人工知能が発達することで2030年頃に雇用が崩壊し始めると私は予想していますが、今のような雇用なら崩壊していいかなって気がしています。

渡辺:そもそも雇用という考え方自体、近代になって生まれてきたものですもんね。それまでは基本、自営業だった。「早く、そういう時代に戻ったほうがいいんじゃないか」と思えてきました。

日本人は勤勉だからロボットにも海外にも勝てない

渡辺:でも急に、「明日からもうはたらかなくていいよ」と言われると、これまで人生の時間のほとんどを仕事にしか費やしてこなかった人たちのアイデンティティーは崩壊してしまうでしょうね。

井上:僕なんかはあっけらかんとしていて、誰かに必要とされる喜びというのは確かにありますが、別に社会に貢献しなくてもいいんじゃないかと思うくらい。

渡辺:狩猟時代は割と労働時間は短かったんです。それが農耕が生まれて、戦争とか略奪とかが起こり始めて、それではたらく時間も長くなっていった。これからロボットが浸透していくと、いい意味で狩猟時代のような生活に戻っていきますね。もしかしたら、狩猟さえしなくてもよくなるかもしれない。

井上:狩猟時代には、「より長くはたらき蓄積しなければならない」とかっていう価値観がありませんでしたからね。紀元前一万年の定住革命の後、農耕の開始とともに人類は蓄積するようになりましたが、さらに近代が始まってからは、より多く稼いで蓄積しないといけないという強迫観念に人びとはとらわれるようになった。人工知能=ロボットが浸透していくと、まずは人びとの価値観が近代以前に戻っていくのかなと。江戸時代の日本人って、西洋の人がやってきたときに「なんでそんなにはたらかないの?」と驚かれるくらいにはたらいていなかった。

渡辺:そうそう。江戸時代の古典落語とか読むと、日本人って結構ラテン系ですよね。

井上:僕も日本人は元々ラテン気質だと思っていて、今はなんでこんなに生真面目なんでしょうね。

渡辺:「ラテンに戻る」という発想は面白いですね。「はたらかなくてもいい」と言われるよりも、「元々ラテン気質で、その頃に戻るだけ」と言われたほうが自然体な感じがします。

渡辺:スペイン人とかは「はたらかなくてもいい」と言われたら、「あ、そうなんだ」くらいにしか思わないんでしょうけど。

井上:彼らは、生活の優先順位が違うので。

渡辺:若者の半分は遊んで暮らしていますからね。どうやって収入得ているんだろうと不思議なくらい。

井上:それでも物価水準を考慮した「一人あたり購買力平価GDP」という指標でみると、日本とスペインはあまり変わらないですからね。要するに実質的な豊かさはあまり変わらないということです。フランス人も日本人よりはたらいていなさそうなイメージをもたれますが、この指標で見ると、われわれよりも豊かな生活をしていることがわかります。日本人は、「あくせくしているからダメなんじゃないか」と思うくらいです。

初回はこちら。

第3回はこちら。





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