Q

東京オリンピック、新競技発明へ!超人スポーツ協会が考える”スポーツの未来”とは?(前編)

2020年の東京オリンピック・パラリンピックには、これまでのスポーツの概念を覆す、テクノロジーを駆使した「新競技」が登場するかもしれないーー。

そう予感させるムーブメントを起こしているのが、今年(2015年)発足された「超人スポーツ協会」だ。同協会は、人間の身体を拡張させて行う競技や、観戦者とプレーヤーの関わり方を一変させる新たな観戦の形を発明しようとしている。

今回は、いずれも同協会の共同代表で、東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の稲見昌彦氏と、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏、そして『Catalyst』の監修を務める渡辺健太郎の対談の内容を、記事と動画コンテンツでお届けする。

老若男女のスポーツとの関わり方や、私たちにとって身体というものの存在意義が、テクノロジーの進化にともない変わっていく未来を体感してほしい。


2020年、東京オリンピックに向けて新競技を発明

井上(ライター):「超人スポーツ」は、スポーツ、テクノロジー、文化を融合させて創造する新領域のスポーツです。超人スポーツ協会は、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?

稲見昌彦(以下、稲見):超人スポーツ協会は、2020年の東京オリンピックを見据え、既存のスポーツの拡張、そして新しいスポーツの発明に取り組んでいます。

テクノロジーと身体を融合させ、「技術とともに進化するスポーツが生まれ」、「誰もがスポーツをプレーすることを楽しみ」、「応援する楽しさも味わうことができる」。この3つを実現することを目指しています。

そのために、まずはテクノロジーで身体能力を拡張していく必要があると考えています。

渡辺健太郎(以下、渡辺):先ほど拝見した「Bubble Jumper(バブルジャンパー)」も、人間のジャンプ力や受け身の能力を拡張させるものですよね。

Image title「Bubble Jumper」を使った競技「鬼相撲」。柔らかい球状のバブルを装着し、ぶつかり合い、相手を倒したほうが勝ち

稲見:はい。身体能力を拡張させるためのスポーツ用具も研究しています。例えば、空を飛ぶことができるユニフォームや魔球が投げられるようなボールといったものです。

渡辺:漫画の世界ですね。

稲見:ええ。スポーツ用具を拡張することで、それを使った新しいスポーツを作れないかと考えています。もう一つ、フィールドの拡張にも取り組んでいます。競技を行うグラウンドがすべてLEDで覆われているとか、プロジェクションマッピングと組み合わせるといったことです。

渡辺:そうすると、無限の広がりを持てると思うのですが、いまのところ超人スポーツというカテゴリのなかには何種類の新競技が存在しているのでしょうか?

稲見:協会は今年(2015年)6月に立ち上がったばかりなので、公式競技と決めているわけではないのですが、これまで5種類の競技が、協会が開催したハッカソンで生まれ、展示できるレベルにまでなりました。

これらの競技の中からを、19世紀に生まれた1人で射撃・フェンシング・水泳・馬術・ランニングの5競技をこなす「近代五種」のように、近未来の「超人五種」として選んでいこうと考えています。

渡辺:もっとも有望な公式競技はどれになりそうですか?

中村伊知哉(以下、中村):Bubble Jumperを使った鬼相撲ですね。ただ、今後1〜2年でより多くの競技が出てくるでしょう。2020年までにかなりの数の種目を集め、東京オリンピック・パラリンピックに並ぶような世界大会を開きたいと考えています。

渡辺:子どもの頃、誰しも新しい遊びを思いついたように、競技そのものをつくるというのは新しい世界だと感じます。ハッカソンにはどのようなひとが参加しているのでしょうか。

Image title超人スポーツ協会主催のハッカソンで開発された「EXTREAM CRUTCH」。松葉杖をついて片足で立ち、ボールを奪い合う競技

中村:技術者を中心に、研究者やクリエイターなどさまざまなバックグラウンドを持つ方に集まっていただいています。以前、デザイン学校の方々に、「超人スポーツをイメージした絵を書いてもらえないか」と頼んだところ、102名の学生がまったく新しい空想上の競技を提案してくれました。

現存するスポーツの多くは19世紀までに登場したものです。20世紀に入り、モータースポーツがいくつか誕生しましたが、まだまだこれからデジタル、ロボティクス、人工知能技術を駆使して、新しい競技を生み出すチャンスがあります。そのプロセスに、皆さんが楽しんで参加してくれようとする機運の高まりも感じています。

「漫画の世界」を共有する日本が超人スポーツの本場に

渡辺:Bubble Jumperや「触覚放送」を体験して感じたのは、漫画やアニメ、映画の中で起こっていたことが、現実世界で体験できるスポーツになりつつあるということ。例えば、子どもがロボットを操縦して戦う場面は戦隊ヒーローものなどで昔からありますが、そういうものを観て育ったひとたちが、アニメの制作とは別に、スポーツの発明という手段で実現するようになっていきそうですね。

Image title選手の動きにあわせてラケットをすることで打点を体感できる「触覚放送」。観戦ならぬ「触戦」ができる

中村:そうですね。私は「サイボーグ009」世代なのですが、004みたいに目と足が照準機になっていて、手が手裏剣で、マシンガンが打てるみたいなひとに自分がなれる感覚があるんです。そういう想像に技術が追いついてきたなと。僕はもう50歳を超えてますが、それでもワクワクするんです。

高校のときは野球小僧だったのですが、フォークボールを投げることができなかった。でも、任天堂の「Wii」で初めて投げられた。そのとき純粋に「いい時代がやってきたな」と思いました。そのように、すべてのひとに「超人」になれる夢を持てる体験をしてほしいんです。

渡辺:僕は「キン肉マン」世代なのですが、超人スポーツと言われて、キン肉マンのことを思い出したんです。例えば、アシュラマンという6本の腕で戦うキャラクターがいるのですが、自分も腕を増やして格闘技ができるようになるのかなと。

稲見:アメリカのマサチューセッツ工科大学の研究では、ロボットの肩に腕を2本取り付けて、合計4本の腕で作業できる技術が研究されていますよね。

中村:そういった世界を実現できる技術を持っているのが、日本の強み。であると同時に、キン肉マンやサイボーグ009など多くの漫画やアニメを楽しんだ経験を通じて、超人の「イメージ」をみんなが共有していることも強みだと思います。

その強みを、2020年に東京で開催されるオリンピックやパラリンピックをきっかけにして、超人スポーツという形で発信することには、大きな意味があると思うんですよね。

渡辺:たしかに、日本人の誰しもがアニメなどに小さい頃から触れているので、アイデアの総量という意味では圧倒的に日本から出てくるような気がしますね。

中村:はい。超人スポーツを世界的な動きにし、その本場を日本にできたらと思っています。

スポーツの民主化、観るものから老若男女がプレーするものへ

渡辺:Bubble Jumperの鬼相撲を見て感じたのですが、想像以上に激しい競技ですね。一方で、安全性も重視して設計されているため、歳を取っても安全に楽しめる競技だとも。

稲見:ルールやスポーツ用具を進化させることで、体格差や身体能力の差などのハンデをある程度克服することができます。例えば、柔道やボクシングなど直接ぶつかり合う格闘技では、体重によるクラス分けがされていますよね。それに対して、剣道や球技などはそこまで分かれていない。

人間は元来、道具を使うことによって猛獣など自分よりも身体能力が高い相手に対して立ち向かってきました。スポーツにおいても、道具を開発していくことで、身体能力が衰えてしまったお年寄りや身体が十分に発達していないちびっ子が、成人と同じ土俵で戦うということも決して夢のような話ではありません。

中村:「老若男女」という言葉がありますが、やたらと強いおばあちゃんが登場したり、子どもが大人の世界チャンピオンに勝ったり、これまでは男女で分かれていたスポーツがすべて混合でできたり。そういった世界を作れたらと思います。

渡辺:テクノロジーによって体格など身体能力であらゆるひとがフラットになり、これからは老若男女がセンスなのか、運動神経なのか、もしくは技術的なところで戦えるようになっていくということですね。

中村:そうです。ただ、先ほど激しいスポーツとおっしゃったように、あくまでもスポーツとして、身体を使うという「肉体性」のようなものは大切にしたいと考えています。

渡辺:なるほど。僕は格闘技が好きなのですが、実際にやれるかというと、怪我しそうでなかなかやれずにいます。しかし、Bubble Jumperのような形だったら激しくぶつかりたいという欲求と安全性がセットなので、これまでは「観る」だけだったスポーツや格闘技が、これからは自分でもプレーできるものになりそうだと感じました。

稲見:超人スポーツには、スポーツの裾野を広げる力があるのだと思います。「超人」というからには、トップアスリートの方々が人類の記録をどんどん更新していくということもあっていいと思うのですが、一方で、「プレーヤーはプレーヤーですごいけれど、自分は試せないな」とスポーツを他人ごとに感じていた人たちに「おもしろそうだから自分も試してみよう」と思ってもらえるようにしたいです。

渡辺:つまり、既存のスポーツでは取り込めなかったひとたちを巻き込み、競技人口を拡張していくということですね。

稲見:はい。オリンピックが東京に来ることが決まったニュースを見たことが超人スポーツを着想したきっかけなのですが、私も始めは他人ごとだったのです。「オリンピックが東京に来ることで賑やかになりそうだな」とは思ったのですが、小学生の頃からスポーツが苦手だった自分が、まさか「スポーツ」でがつながるとは思ってもみなかった。

既存のスポーツのなかでトップを目指すこともとても尊いことだと思うのですが、自分たちでスポーツを作り出すことでこれからのスポーツ文化の発展に貢献できるかもしれないと思っています。

中村:ロンドンパラリンピックの走り幅跳びで優勝した選手の記録が健常者のそれを抜いたことが以前話題になりましたが、2020年の東京パラリンピックではこのようなことがさらに起こるでしょう。

では、ハンディキャップを負った方々がトップアスリートよりも超人になれる時代に、そのどちらでもないひとたちも何かできないのか。そのようなひとたちも超人になれる夢や機会があってもいいと思います。

Image title「身体性はいまも未来もスポーツの核」と語る稲見氏

次回は、12月10日に公開予定。「身体というものの存在意義」「観戦」といった観点で、3名がスポーツの未来について語る。

新国立”超人”競技場計画を水面下で始動!超人スポーツ協会が生み出す新しい”観戦”とは?(中編)

日常生活の”スポーティフィケーション”!その先に広がる超人スポーツ”メガ”市場のポテンシャルとは?(後編)

価値観を変えるシゲキメディア

TAGS

SHARE

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで『Catalyst』をフォローしよう!