この世が仮想現実である可能性ーシミュレーション仮説とは?ー

2017.1.20

『CATALYST』が取材した神戸大学名誉教授で宇宙物理学者の松田卓也氏は、宇宙人が見つからない理由について「宇宙人がシンギュラリティを起こし、仮想世界に入ってしまったから」とシミュレーション仮説にひもづく説を唱えている。シミュレーション仮説とは一体なんなのか、解説する。

イーロン・マスク氏も注目するシミュレーション仮説とは?

「私たちがシミュレーション世界に住んでいる可能性は非常に高い」

Tesla MotorsとSpaceXのCEOイーロン・マスク氏がテクノロジーニュースサイトRecordのイベントで放った発言が議論を呼んだことは記憶に新しい。

1972年に米国で発売された「ポン(Pong)」という卓球ゲーム。

ビデオゲームの元祖のようなものだが、このポンが発売されてから現在に至るまでたった40年ほどでビデオゲームは現実かと疑うようなバーチャルリアリティ(VR)に進化した。ゲームやVRがこのペースでさらに進化していけば、現実とまったく区別のつかない仮想世界がつくられてもおかしくなく、そう考えると私たちが仮想ではない世界に住んでいる可能性は数十億分の一だろう、というのがマスク氏の主張だ。

イーロン・マスク氏が公に発言し、話題になっているが実はこの仮想世界の話は以前から科学者や哲学者の間で議論されてきた。

シミュレーション仮説というコンセプトはカーネギーメロン大学ロボット工学研究所のハンス・モラベック教授が1990年代に発表したエッセーのなかで登場する。

その後、オックスフォード大学のニック・ボストロム哲学教授が2003年に発表した論文「Are you living in a computer simulation?」のなかで、この宇宙がシミュレーションである可能性を論じたことで、シミュレーション仮説が広く知れ渡るようになった。

Image titleニック・ボストロム氏(TEDより参照)

『CATALYST』が取材した神戸大学名誉教授で宇宙物理学者の松田卓也氏は、宇宙人が見つからない理由について「宇宙人がシンギュラリティを起こし、仮想世界に入ってしまったから」とシミュレーション仮説にひもづく説を唱えている。

ニック・ボストロム教授の提唱するシミュレーション仮説とは

ボストロム教授は、以下の3つのうち少なくとも1つが実現する(または実現している)可能性があると主張する。

1.人類のような知的文明がシミュレーション世界をつくりだせる技術には到達することはない。または、そのようなシミュレーションは技術的に実現不可能。
2.そのようなシミュレーション技術を持つ文明では、仮想現実をつくりだすことに関心がない。
3.われわれが住んでいる世界はコンピューターシミュレーションでつくられている。

この世界がシミュレーションである可能性について、ボストロム教授は以下のように論じている。

もし、知的文明がシミュレーション技術を開発し、その時点で知的文明が過去や祖先に興味を持っていて、シミュレーションを実施する上で道徳的・法的なバリアがない場合、過去や祖先をシミュレートするのは妥当と考えられる。

また、このようなシミュレーションを行うのは、われわれがいま使っているような「バーチャルマシン」のようなものかもしれないという。

コンピューターのなかに仮想環境をつくりだし別のコンピューターを動かすことのできるバーチャルマシン。

もし、われわれの世界がシミュレーションであるなら、そのシミュレーションの実施している種族もシミュレートされた存在かもしれないというのだ。

われわれが祖先や過去に関するシミュレーションができる技術レベルに到達した場合、それは(1)と(2)の可能性を下げ、(3)つまりわれわれがシミュレーションの世界に生きている可能性を高めるものになると主張している。

急速に進化するシミュレーション世界をつくりだすテクノロジー

仮想空間を現実のように感じるテクノロジーやシミュレーション世界をつくりだすテクノロジーは急速に開発が進んでおり、マスク氏やボストロム教授がいうように、このスピードで進化していけば、さまざまなものをシミュレートしたり、仮想空間を現実のように感じたりできるようになるのはそれほど遠くない未来に実現しそうだ。

その1つは膨大な量の計算処理を可能にするスーパコンピューター(スパコン)だ。『CATALYST』でもおなじみのスパコンベンチャー企業PEZY Compurting社は、2018年には「京」に迫る計算処理能力を持ちながらも、コピー機サイズに収まるスパコンを開発する予定だ。さらに、2019年、2020年とより高度なスパコンをリリースする計画もある。

スパコンが進化していくとシミュレーションできる範囲も増えていき、やがてはあらゆる科学実験がシミュレーション内でできるようになるという。これに人工知能が加わることで、人工知能が立てた仮説を、スパコン内で検証していくサイクルが確立され、科学技術の進歩が爆発的に加速することが予想されている。

スパコンのほかにもVRなどシミュレーション仮説を体現するさまざまなテクノロジーが加速度的に進化している。

米国と中国に拠点を置くDexta Robotics社が開発する「Exoskeleton」と呼ばれるメカニカルグローブは、手の動きを認識するだけでなく、仮想空間での感触をユーザーにフィードバックできる技術だ。

これは、バーチャル世界での感触を現実世界のように感じることのできる技術がすでに存在することを示している。
このような技術がさらに進化していけば、われわれは現実と見分けのつかない仮想空間をシミュレートできるようになるだろう。
それはつまるところ、ボストロム教授がいうように、この世界が非常に高い確立でシミュレーションであるということを示すことになるのかもしれない。


Dexta Robotics社が開発する「Exoskeleton」

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