感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

2017.1.20

スマートフォン、アクションカム、空撮、360度動画、VR・・・ リアルな体験を切り取るデバイスが増えたことで、私たちはSNSのタイムライン上で実に多様な「体験」をすることが可能になった。
一方で、気軽に「体験」ができるようになったからこそ、いろんな場所へと実際に足を運ぶことが私たちにより大きな驚きや発見をもたらしてくれると考えている。エクストリームな場所ならなおさら。そこには五感すべてを刺激するかのような異質な情報があふれている。
数あるエクストリームな場所の中でも、私が特にオススメしたいのが「廃墟」だ。廃墟への旅はその現実離れした空間体験だけでなく、知的好奇心や人間の野性を揺り起こす「感性のトライアスロン」ともいえる魅力がある。
今回はその魅力を、廃墟探索を趣味とする筆者が、体験をさらに増幅させてくれるテクノロジー「360度カメラ」を交えながらお伝えしたい。

非日常を超えた「非現実」

感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

2016年1月、零下に達しようかという寒さのなか、岩手県八幡平市にある「松尾鉱山」、その “都市” にある緑ヶ丘アパートを訪れた。自分以外、人間が一人も存在しないアパートの中を雪が吹きすさんでいる。あとはかすかに風の音が聞こえるのみだ。
廃墟の魅力は「非日常」という言葉で語られることが多いが、実際に足を運んでみるとそれは非日常などはるかに超えていて、「非現実」と呼ぶのがふさわしいほどに特異な場所である。まるで、『天空の城ラピュタ』や『サイレントヒル』のような、アニメやゲームの世界にいるような錯覚を覚えるほどだ。
それだけにはとどまらない廃墟の魅力は、大きく分けて3つあると考えている。

1.ナビゲーションの無い探索
2.知的好奇心を刺激するパラレルワールド
3.現実を超越した空間体験

ナビゲーションの無い探索

考えてみれば当たり前だが、廃墟は「Google マップ」に載っていない。そこにたどり着くための手がかりは、多くの場合、数年前に更新されたような廃墟探索ブログの断片的な情報のみだ。山中、離島など危険な場所も多く、不確定な情報をもとにたどり着けるかも分からないまま廃墟を目指さなければならない。
検索結果の端から端まで情報を収集し、現在のルートに目星をつけて進む。できることはすべてし尽くすのだが、周囲の景色が集めた情報とどれくらい違っていれば「ルートを間違えた」と判断するべきか・・・、結局最後に頼れるのは自分しかいない。
日が暮れてしまえばたどりつけない。運が悪ければ死ぬ可能性のある場所にいる。不安でも進むこと。常に自分を疑うこと。意思決定の失敗がすべて自分に返ってくる状況で、繰り返し素早く判断を下す経験は日常生活では得難いものだろう。「たどり着きたい」、その意志を何度も自分に確認しなければ、途中で諦めてしまいそうになる。
だからこそその分、たどり着いたときには大きな達成感が得られる。「すごいぞ、ラピュタは本当にあったんだ!」

感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

知的好奇心を刺激するパラレルワールド

廃墟にはそれぞれ荒廃した理由がある。登場人物がそれぞれの利己的な幸せを追い求める過程を描く物語『アンナ・カレーニナ』の書き出しを借りれば、「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」ということだ。
交通が不便、資源が枯れた、資源が不要になった、公害があったなど理由はさまざまだが、たしかに人びとは一時的にでもその場所に存在し、生活を営んでいた。しかしそれは歴史に淘汰されてしまった。まるで、我々ホモ・サピエンスに対するネアンデルタール人のようだ。ありえたかもしれない歴史の枝流が本流を浮かび上がらせる。


(Youtubeアプリでご覧いただくと、360度動画をお楽しみいただけます)

この360度動画は、今回訪れた松尾鉱山の緑ヶ丘アパートで筆者が撮影したもの。この場所にも荒廃の歴史がある。
硫黄鉱山の採掘のために作られたこの都市は、硫黄が石油精製の副産物として大量に獲得されるようになり不要化した。稼働していた最盛期の頃は、硫黄の産出を24時間休みなく行うため、空中では運搬用のロープウェイがいくつも走り、ふもとでは鉄道が硫黄を運んでいた。
もしも石油が精製されることがなかったなら、そしてその副産物として硫黄がタダ同然のような価格で手に入ることがなかったなら、人びとの生活さえも硫黄の生産に最適化されていたこの機械のような都市は、世界中に今でも存在していたはずだ。人間と町との関わり方や価値観は今とはまったく違ったものになっていたに違いない。
産業が一つの街を、人の人生をかたちづくる。だとすれば、今私たちが暮らす都市や社会も、過去のいくつかの重要な思想や慣性のなかでこのような形になっているのだ。廃墟は今の私たちの価値観がいかに刹那的なものであるかを考える視点を与えてくれる。

感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

現実を超越した空間体験

廃墟の一番の魅力はやはり、圧倒的な空間体験だろう。廃墟は、まったく異なるシステムの中で生きていた人びとの「抜け殻」だ。見知らぬ人たちが、見知らぬ町で人生を営んでいたその一部。そんな場所に、自分一人しかいない。非現実的な廃墟にたたずんでいるうち、自分だけがこの世界から浮いた存在であるように感じ始める。異質な自分と世界との境界線を、ぴりぴりとした肌感覚で意識することができる。
廃墟はこのようにとても「強い」空間体験を与えてくれる。それは、夜景や日の出を見るといった視覚的体験とは異なる「空間体験」だからだ。
先ほど「自分が浮いた存在である」と表現したが、それは廃墟には騒音や人の衣服などの吸音材が一切無く、自分の発する音が空間全体に反響するからだ。反響した音、反射した光、移動する空気、それらを知覚することで、たとえ見えていない背後であっても空間を感じ取ることができる。これこそまさに「360度体験」である。
事実、廃墟と360度カメラは相性が良い。今回実際に撮影してみてそれをはっきりと感じた。
「感性のトライアスロン」としての廃墟の魅力をお届けしたが、知的好奇心を抑えることのできない『CATALYST』読者にはぜひ実際に足を運んでいただきたい。
廃墟トリップでは、日常で忘れ去ってしまった感性を全身で思い出すことができる。都市生活ではマスクされてしまった感覚が、不要となり捨て去られたパラレルワールドの廃墟を訪れることで揺り動かされるのだ。このハイコンテクストな矛盾を楽しむ人が増えることを私は願ってやまない。
筆者はさらに現実離れした空間として、海外の廃墟に興味がある。次回訪れた際には記事として皆様にお届けできることと思う。

感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

取材・執筆 :

行ってみたい?

0 0
感性のトライアスロン、360度カメラを持って訪れる廃墟トリップの魅力

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Keywords

Back Numbers

  • DRONE RACE
  • AI
  • DRONES
  • Motoaki Saito
  • Biohack
  • FUTURE LIFE
  • Singularity World
  • WORK