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食品ではなく食物を!キヌア生産の第一人者が訴える食の原点回帰

キヌアキヌア

近年スーパーフードとしても認知されている「キヌア」。ヒユ科の擬似雑穀で、原産地はペルーやエクアドル、ボリビア、コロンビアなどのアンデス地域といわれる。紀元前5000年からインカ帝国の主食として用いられていた記録も残っている。

グルテンフリー、高タンパクなのに低カロリーなため、ダイエットにも効果的といわれる。精白米と比べ、たんぱく質2倍、カルシウム6倍、食物繊維10倍、必須アミノ酸をすべて含む、非常に健康的に優れた商品として注目されている。

遠い南米の雑穀であるキヌアの有機栽培を国内で推進しているのが、農業生産法人上野原ゆうきの輪合同会社だ。同法人は、山梨県上野原市の地域おこしを目的として設立。日本で初めてキヌアの大規模生産とインターネット販売を始めた。さらに、キヌアの情報発信のためのウェブサイト「キヌアのまとめ」の運営にも関わっている。

同社の共同創業者で副代表を務める大神田良行氏(以下、大神田)は「上野原をキヌアの里にしたい」と語る。その大神田氏に『Catalyst』の運営社である株式会社マイクロアドの代表取締役、渡辺健太郎(以下、渡辺)が話を伺った。

キヌアの農園で対談する大神田氏と渡辺氏キヌアの農園で対談する大神田氏と渡辺氏

日本初の大規模キヌア生産に挑戦

ーキヌアがスーパーフードとして注目されていますが。

大神田:そうですね。弊社への問い合わせも日に日に増えているのを実感しています。2013年が国際キヌアの年だったことも、急速に知られるようになった要因かもしれません。

健康志向の高い女性を中心によく問い合わせをいただきます。弊社はまだキヌアの生産量が多くないですし、価格も決して安くは設定していません。ですから、キヌアをまずは試してみたいという方には、まずは輸入品を買ってみたらと申してきました。しかし、みなさんすでに輸入のキヌアが安く市場に出回っているのは知った上で、弊社の商品をお求めいただいているようです。「有機」で栽培していることや「国産」であることを重要視する方が多いです。

グルテンフリーで、GI値が低いだけでなく、安全で信頼できることに価値を見出す消費者が多く、そういった方々にキヌアを届ける事業展開をしていきたいです。

ー渡辺さんはキヌアを日常的に食べているそうですね。

渡辺:私はよく有機玄米を食べるのですが、小豆を入れたり、さまざまな雑穀と混ぜて食べていろいろと試した結果、最近は玄米に対して1割くらいの量のキヌアを入れて食べています。

ーほかに美味しい食べ方はあるのでしょうか。

大神田:キヌアは味が淡白なかわりに、さまざまな料理に使えるというのが大きな魅力です。弊社では、収穫後のキヌアを高温の蒸気で加熱処理を施すことにより「ポップキヌア」を作っています。そうすると、サラダに入れてもキヌアの香ばしさをそのまま楽しめます。夏でもさっぱり飲める水出し茶もできます。粉末状にしたパウダーキヌアもあり、それを使ってホームベーカリーでパンをつくると、表面がカリッとしてフランスパンのようになり美味しいです。

ーキヌアは日本人にあまり馴染みがない食べ物だったと思うのですが、栽培を始めたきっかけは。

大神田:弊社はもともとジャガイモ農家からスタートしました。江戸時代の3大飢饉でもある「天明の飢饉」の際も、この地域はじゃがいもで乗り越えたという歴史もあるのです。

せいだのじゃがいもで乗り越えたという「たまじ」という郷土料理もあることから、材料のじゃがいもになるせいだ芋を栽培していました。市を巻き込んで5千本ほどのせいだ焼酎を生産したのですが、利益が出ず困っているところキヌアに出会いました。キヌアの研究員を招いて地域おこしのために協力していただき、種を分けてもらい、試験的に栽培を始めてもらったという経緯です。

キヌアの栽培風景キヌアの栽培風景

ーキヌアを栽培してみてどうでしたか。

大神田:非常に大変でした。キヌアは、原産地では標高2000メートル以上の高地で栽培されます。そこには、鹿も雑草も害虫も生息していない。何もないところにキヌアの種をまけば簡単に育ちました。山梨でキヌアの研究者による試験栽培は行われてきましたが、小規模で栽培する分には簡単。ただ、規模を大きくしようとすると、虫による食害に遭ったり、鹿に食べられてしまったりと想定外のことが頻発しました。

上野原の豊かな自然でキヌアは栽培される上野原の豊かな自然でキヌアは栽培される

渡辺:管理された環境で育てるのとでは違ったのですね。

大神田:はい。キヌアを大規模に生産をした開拓者がいなかったんです。なので、想定以上に試行錯誤が続いてしまう結果となりました。しかし、なぜキヌアは広まらなかったのか。じゃがいも、トマトなどもキヌアと同じで南米原産ですよね。それが日本に伝わり、品種改良されて、食物として栽培されていたのに。

渡辺:米があるからですかね。

大神田:そうだと思います。日本人はお米が非常に好きな人種ですよね。キヌアは草の種ですから非常に淡白な味です。日本人が大好きな米の甘みなどは感じられません。

渡辺:確かに美味しいものとしてより、健康食品として注目されていますよね。

大神田:だからこそ、健康に気を遣う現代の流れに合った作物といえると思います。

キヌアの説明をする大神田氏キヌアの説明をする大神田氏

メディアと食育を変革し「食」の本来の目的へ原点回帰

ー「食」の現状と課題について教えてください。

大神田:本来食べるものは「食物」(たべもの)と書きますが、今は「食品」(しょくひん)になってしまっていますよね。品はつまり品物、それは「与えるもの」。与える物だから、本来の「生きるため」や「美味しさ」ではなく、見た目が優先されている。化学肥料が使用され、一年を通して食べられるよう品種も改良。添加物をたくさん入れて加工し、何カ月も保存可能に。食べ物が本来の役割を失ったように思います。今こそ原点に帰るべきだと思います。これからの人たちは「食物」を食べていかないといけません。

渡辺:確かにそうですね。それは20世紀の資本主義がもたらした流れかもしれないですね。ファストフードに代表されるような、加工品である「食品」が消費されてしまっています。それが要因となってアレルギー発症の原因になっているのかもしれませんし、病気の一要因になっているのかもしれない。病気になったら病院に行き、薬が処方される。薬で一時的に症状が治っても、根本的な原因を絶たなければ、薬を服用し続けなければならない。副作用で薬漬けに悩まされる方もいます。経済としてはお金がどんどんまわるのですが、その流れの本質を考えると違和感がある方は増えていると思います。

ー手軽に済ませられる食品が消費者に支持されている風潮を変えることは可能でしょうか。

渡辺:日本でも少しずつ食に対する意識に変化が起こり始めていると思います。例えば、コールドプレスジュースが高価でも一部の日本人に受け入れられている。一方、大手ファストフードチェーンが経営難に陥っています。インターネットで、一カ月放置しても腐らなかったハンバーガーの動画が拡散されていましたよね。虫すら食べないものを人間が食べているということです。ただ、ヨーロッパでは1980年代にイタリアで「スローフード」が生まれたことでオーガニック文化が成熟したことを踏まえると、日本はどうしても遅れているように感じます。

大神田:そうですね。キヌアもその栄養価の高さからヨーロッパで注目され、アメリカに広がり、今ようやく日本でも認知されてきました。

ーなぜヨーロッパやアメリカに比べ、日本は「食」に対する意識改革が遅れてしまっているのでしょうか?

渡辺:メディアが大きな要因のひとつではないでしょうか。メディアのスポンサーは多くが食品会社。加工された食品を取り扱う会社ですよね。その食品会社にとって「食物」は競合にあたるのではないでしょうか。何カ月も保存できるジュースは酵素、ビタミンが死んでいるはず。コールドプレスジュースのように、栄養価が最大限に摂取できる方法でジュースにされた物と「食品」である野菜からつくられたジュースとではかなり違うのではないでしょうか。

大神田:メディアもそうですが、あとは食育が重要です。味の違いを身体で知ってもらう。これからの子どもに「食物」を食べてもらう。幼少期に食べていた物は身体に染み付くんです。私の知人に、冷凍の刺身のほうが美味しいという方がいます。なぜかというと、冷凍の刺身を食べて育ったから。その方の口には冷凍刺身が合うそうなんです。だから、幼少期から有機で、安全で、健康的な食べ物の味が身体に染みつくことが非常に重要だと思うのです。

「美味しい朝採り野菜」は売り手の都合で生まれたイメージ戦略

渡辺:私は道の駅で野菜を買うのが好きなんですよ。都内のスーパーでは、店頭に並ぶ時に一番「売れる」ようにどうすればいいかを逆算しているから、一番美味しい状態ではないですよね。逆に、道の駅では、採れたての野菜をその日に出荷し、同じ日の午後には売り切れているから、味も全然違うんです。値段も安いです。

大神田:確かにそうですね。ただ「朝採り野菜ほどまずい野菜はない」という見解もあります。野菜は、採った時間帯によって味が変わる。植物なので光合成をしますよね。昼間に太陽の光をたっぷり浴び、栄養が葉に蓄えられます。夜にかけてその栄養を根に送るんです。朝に収穫した葉物の野菜は、実は栄養が抜け切っているんです。葉物は夕方採取したものがおいしい。逆に朝美味しいのは、根野菜ということになりますよね。

渡辺:なるほど。では、葉野菜は夕方に採って夕食にするのが理想なんですね。それか、朝食べるなら漬物にするなどの工夫をしないと。知りませんでした、おもしろいですね。そうすると、食物によって理想的な収穫タイミングなども情報として提供していかないといけませんよね。

大神田:そうです。消費者の多くはイメージで買ってしまっていて、本当のことを知らない。朝採りと、夕方に採れた野菜を比較して食べてみればどちらが美味しいかなんてすぐ分かりますよ。それが情報として正しく伝わらないのは、流通が間に合わなくなるからです。「朝採り野菜が美味しい」というキャッチフレーズは、商品が市場に流通しやすいタイミングを正当化するために使われているにすぎないという見方もあるのです。

周囲を巻き込み持続可能な「文化」を作る

ー物流が大きな障壁の中、それを解決してさらに持続可能にしていくためにはどうしたらいいのでしょうか。

渡辺:インターネットは活路になると思います。有機野菜の注文をインターネットで受けて届けるビジネスは成長していると思いますし、健康志向の方の人口も増えています。このように物流を工夫できるほか、インターネットで正しい情報を発信することにより、本当に健康的な農産物を供給する生産者が誰かを見える化することもできます。

大神田:キヌア栽培の持続可能性で言えば、作り手がいないことが大きな課題です。贅沢な悩みかもしれませんが、顧客は商社やコンビニエンスストア、レストラン、2年以上待ってくれているパン屋など充実しているのですが、求められている生産量には到底達しておらず、商談をお断りせざるをえない状況です。

渡辺:すごいですね。それだけキヌアのニーズが高いということですね。

大神田:はい。ただ、作り手が不足しています。安定的に需要に応えられる供給力がないと持続可能にはなりません。もちろん、それを弊社だけの力で解決できるとは思っていなくて、上野原市と連携して「地域おこし協力隊」を発足しました。キヌアを上野原市の特産品に仕上げていこうと動いています。地域おこし協力隊が、キヌアの正しい情報を啓蒙していくためのウェブサイト「キヌアまとめ」も運営しています。このサイトを通じてキヌアについて正しく知ってもらえるよう情報発信をしたり、農業大学生と協力したり、農業に従事してくれる人材の採用を行ったりしています。これにより、文化的に相乗効果を起こしていけるような事業構想を描いています。

渡辺:夢がありますね。

大神田:はい。キヌアをひとつのツールとして、上野原を活性化させたいと思っています。キヌアといえば上野原と言っていただけるような地域に育てたい。キヌアを見に来て、食べに来て、遊びに来て、そして作りに来てくださいといった具合です。

渡辺:なるほど。そこまでして本当の地域おこしになるのですね。キヌアのレシピやお店などソフト面も整ってくれば、非常に盛り上がると思います。

大神田:はい。弊社の従業員だけでなく、行政や、研究員、学生などさまざまなプレーヤーを巻き込んで文化を作る事業推進をしていきたいと思います。


編集後記:対談で垣間見えた21世紀型の食の捉え方

赤江:この対談を通して、20世紀型の大量消費社会の食の捉え方は終焉を迎えていると感じた。利益追求のために購買意欲を高めるさまざまな工夫がなされてきた。コマーシャルや商品を美しく見せる包装で多くの資源が浪費され、それが高価な値で消費された。その結果、経済は潤い、食べ物は本来の目的を失った。社会の着眼が「儲け」にいっていたのだろう。ただ、すでにお金が健康には変えられないことを、人々は再認識しはじめているのではないだろうか。

今対談を経て、美味しさや美しさだけで食を捉えるのではなく、自分のライフスタイルに合わせるという視点をもつ重要性を認識した。また、キヌアなどのスーパーフードが健康だから食べるだけでは不十分だ。キヌアの生産者の目的が「健康」や「自然さ」にあり、消費者の目的もそれに一致していければ、社会はポジティブな21世紀を歩んでいけるだろう。

価値観を変えるシゲキメディア

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