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新スポーツが生まれていく!発明するのはアスリートではなく技術者

日本科学未来館で開催されたデジタルコンテンツの祭典「デジタルコンテンツEXPO 2015」。そこで行われたトークセッション「スポーツを変えるコンテンツ技術の可能性」の模様をお届けする。

登壇したのは、Dentsu Lab Tokyoグループ・クリエーティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジストの菅野薫氏、ABBALab代表取締役の小笠原治氏、評論家の宇野常寛氏、そして超人スポーツ協会共同代表の稲見昌彦氏。

そこで語られた、スポーツとテクノロジーの関わり方、その先に生み出される新しいスポーツの在り方とはーー。

データがスポーツをエンタメに変える

「観客」としてのスポーツとの関わり方がこれから変わるかもしれないーー。菅野氏と小笠原氏は、そんな未来を予感させてくれるテクノロジーの事例を紹介してくれた。

菅野氏が手がけたのは、読者もすでにご存知かも知れないが、本田技研工業との共同プロジェクト「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」。いまは亡き伝説のF1レーサー、アイルトン・セナが1989年に鈴鹿サーキットで行われたレースで見せた世界最速ラップの走りを、光とエンジン音で現代に再現するというものだ。

菅野氏とホンダがこのプロジェクトの裏側に持っていた思想について、「あのひとが、あの瞬間に、この場所に立ってたんだということを感慨深いストーリーに仕立てたかった」と同氏。ここに立っていたという目に見えない事実を、残されたエンジンの回転数や車体スピードなどのデータや映像、音源などの “痕跡” をもとに見える形にしていった。

また菅野氏はもう一つ、フェンシングのオリンピック金メダリスト 太田雄貴氏からの依頼で、「Fencing Visualized Project」という映像を制作し、太田氏が五輪招致のプレゼンテーションをする際に上映された。その後も、プロジェクトは続いており、現在では剣の軌跡や足の荷重、筋肉にかかる電流(筋電)、心拍を可視化するモーションキャプチャなどの開発および改良がなされている。

このプロジェクトの発端となる問題意識は「フェンシング自体は認知されているのに、そのルールを知っているひとが少ないこと。だから、観戦者が勝ち負けを判断するのが難しい」というものだった。それを解決すべく、膨大な試合を繰り返し、選手の動きに関わるあらゆるデータを集積、機械学習を行った。

菅野氏が手がけたF1とフェンシングの2つのプロジェクトは、選手のコンディションを可視化して楽しむ、新しい観戦のあり方をプレゼンテーションするものだ。この発想を活かせば、プロの型を学ぶ良質なトレーニングというものがアマチュア層にも広がるかもしれない。

スポーツにも活かされるハードウェアを開発するスタートアップへの投資実績を持つ小笠原氏は、テクノロジーを駆使することによって、アマチュアレベルの競技者がパフォーマーになる上での障壁が下がる可能性を提示した。

同氏が取り上げたモーションセンサー、フルカラーシリアル制御LED、無線モジュールなどをソールに内蔵したスマートシューズ「Orphe」は、それを履いたダンサーなどパフォーマーが踊ると、シューズの動きを光の軌跡でマッピングすることができる。

「テクノロジーと人間の動きという文脈で言うと、菅野氏が実践しているようにデータによって人間の極限のパフォーマンスを実現、可視化したり、Orpheのようにそのパフォーマンスをエンターテインメント化できるようになると思います。または人体を拡張するようなことも・・・」

左から宇野氏、小笠原氏、菅野氏左から宇野氏、小笠原氏、菅野氏

22世紀には当たり前の競技を発明したい

その、「人体の拡張」に取り組むのが、2015年6月に「超人スポーツ協会」を立ち上げた稲見氏だ。

「私たちの身体はDNAが変わらないと進化しないが、人間の身体に合わせて作られた技術というのは進化しています。2020年には人間と機械が一体化した新しいシステム、つまりシンギュラリティのようなものが起き、誰もが超人になれるかもしれない。技術でスポーツを進化させられれば、すべてのひとがスポーツを楽しめることにつながります」

稲見氏は同協会を立ち上げる過程で、ロボット、ユーザーインターフェイス、バーチャルリアリティ、スポーツ科学、メディアアートなどさまざまなバックグラウンドを持つひとたちと議論を重ねたが、そこで分かったことは「いままで “スポーツとはなにか”については、あまり考えられてこなかった」ということだと言う。

「スポーツを自分たちで発明しようとすることがきっかけで、初めてスポーツとはなにかについて考えるようになりました。スポーツ、またその各競技というものは、”身体を動かす” という前提条件に、それぞれの ”ルール” を付加した存在に過ぎないのかもしれません」

稲見氏が教鞭を振るう慶應義塾大学では「自我作古」という言葉がよく使われるそうだ。「我より古を作す」と読むが、「伝統に則ることは大切だが、自らが伝統になるような、後から見ると古いと思われる古になるようなものをいつか自分たちで作っていかねばならない」という決意を表した言葉である。

当面は2020年に開催される東京オリンピックを見据えながらも、「21世紀の前半に日本で発明され、22世紀の世界では普通にプレイされているスポーツを作り出す日を思え描きながら日々歩んでいる」と稲見氏は語った。

そんな同氏が発明しようとしてるスポーツとはどのようなものかーー。それについては、後日公開予定の同氏と『Catalyst』監修者 渡辺健太郎の対談の模様を通じてお伝えしたい。

超人スポーツとは「技術とともに進化し続けるスポーツ」(稲見氏)超人スポーツとは「技術とともに進化し続けるスポーツ」(稲見氏)

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