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人工知能は共感力を獲得できるか? Google「Magenta」プロジェクトの挑戦

Googleが、人工知能の研究課題の一つである機械学習をもちいて優れたアートや音楽を生み出すためのプロジェクト「Magenta(マジェンタ)」を開始した。機械学習システム「TensorFlow」を使用し、開発されたツールやモデルはオープンソースとしてGitHubで公開される。

芸術・音楽の領域に発展する人工知能を開発

Magentaは、ディープラーニングの研究プロジェクト「Google Brain」のメンバーによって推し進められている。プロジェクトメンバーであるDouglas Eck(ダグラス・エック)氏はブログで、Magentaには2つの目的があると述べている。

1つめは、機械学習を芸術創造や音楽の領域に発展させる研究を進めること。

機械学習はすでに音声認識や翻訳などの領域に応用されてきているが、アートや音楽を作り出す方法を学習するアルゴリズムが開発できれば、コンピュータは自ら魅力的で芸術的なコンテンツを作成できるようになり、その多面性が増すと考えている。

2つめの目的は、コミュニティーの構築。アーティストや開発者、機械学習研究者によるコミュニティの構築を試みようというもの。

オーディオやビデオのサポートから提供し、アーティストがMIDIなどのフォーマットに対応したツールや機械学習モデルを活用できるようにする。例えば、音楽家がMagentaのモデルを活用することで音楽を生み出すことをより簡単にしたいという。

エック氏は、

私たち自身でさえも、芸術家がどのようにMagentaを活用していってくれるのかはわからないが、だからこそどうなるかすごく楽しみにしている

とコメント。

その真意について同氏は、

史上初めて実用的な写真技術を完成させたダゲールも、コダックカメラやカラーフィルムを発明したジョージ・イーストマンも、現代の著名な写真家のアニー・リーボヴィッツやリチャードアバロンが成し遂げることを当時は想像できなかっただろうし、リッケンバッカーやギブソンも音楽業界の行方を想像し得てはいなかったはずだからだ。言語認識や翻訳と相性の良いモデルが、芸術分野とも画期的な結びつきを生むことを確信している

と述べている。

開発者以外も巻き込みオープンな改良を目指す

マジェンタはすでに、研究者およびコード開発者向けにアルファ版のコードを公開しており、ツールやモデルがそろえば外部からもGitHub上でより本格的に参加することを呼びかける考え。

エック氏は芸術家に対しても、

芸術家やミュージシャンであればMagentaを使って音や画像、動画など何でも作ってみてほしい。また、コミュニティ上でさまざまなフィードバックや専門性を共有することで、Magentaの発展の一端を担ってほしい

と開発者だけにとどまらず、同プロジェクトがよりオープンに改良されていくことを期待している。

Googleは、芸術分野と人工知能をリンクさせる方法を構築するため、2つのプロジェクトを走らせている。

  • 芸術とテクノロジーがどう関係し合うことができるのかを研究する「Artists and Mchine Intelligence (AMI)」
  • 世界中の文化財の展示や芸術コレクションをウェブ上で検索できる「Google Cultural Institute」。同プロジェクトの「Lab at the Cultural Institute」では、直接アーティストとのネットワーク作りを推進している。

エック氏は、

Magentaが発展する過程でAMIやGoogle Cultural Instituteとも連携し、テクノロジーと芸術家を共鳴させていく

という。

最難関の挑戦は「ストーリーテリング」

プロジェクトで進められていく研究の4つの柱は、以下の通り。

Generation:生成

主な目的は、音楽やアートを生み出すアルゴリズムをデザインすること。人工知能がより優れたアートや音楽を作り出せるよう学習させるには、より優れたモデルの構築、ユーザーのフィードバックを効果的に活かせるかがカギとなる。

Attention and surprise:興味と驚き

芸術を生み出すにはサンプルイメージやパターンの学習を重ねるだけでは足りない。ビートルズの音楽が、曲ごとにストーリー性が異なることでリスナーの驚きを引き出すことがあるように、アーティストやミュージシャンが人びとの興味や意識をさらえるようにならなくては。

そのために、機械学習モデルをどのように用いれば、人に興味をもたせたり驚きを与えたりできる芸術を生み出すことができるのかを追及したい。そうすることで、音楽や芸術だけでなく言語モデリングにも技術を応用していけるだろう。

Storytelling:ストーリーテリング

これがもっとも難しい挑戦。人工知能により優れた芸術を生む能力を学習させ、それらを人間に興味深いと思わせたり驚きを与えながら、一連のストーリーを伝えさせること。断片的なアートや音楽にはたとえ優れていたとしても、つながりのあるメッセージ性のようなものが欠けている。

Evaluation:評価

Magentaが発展し、音楽を作り出すモデルが増えてきた後、どれが良いものかを判断しなければならない。しかし、芸術に対する評価を計算で評価するのは難しい。芸術家やメディア、視聴者にどれが魅力的かをフィードバックしてもらう必要があると考えている。

Magentaが私たちにもたらす2つのインパクト

Magentaをこれから注視する際、『Catalyst』読者がもつべき観点は2つある。

1つは、趣旨そのものである「人工知能を芸術・音楽の領域に発展させることができるか否か」という観点。これまで多くの人が、「クリエイティブな仕事は、人間だけのもの。人工知能に奪われることはない」と考えてきたが、それが揺るぎ始めることになるからである。

実は、Magentaとは関わりのないところで、すでに音楽家兼サイエンティストのデイビット・コープ氏が「エミー」という曲をプログラムだけで作成し、過去に話題を呼んだことがある。その作曲のクオリティーは普通の人では太刀打ちできないものである。

Magentaがミッションを成し遂げることができれば、平均的な人の間で「クリエイティビティーで人工知能に勝てないかもしれない」という認識が広がるだろう。すると、クリエイティブな仕事において人間が果たせる役割とは何かを再考し、人工知能の力を活用するための知識やノウハウを多くの人が模索し始めることになる。

2つめの観点は、同プロジェクトが最難関の挑戦と捉えてもいる「人工知能にストーリーテリングを可能にさせることができるか否か」。そして実は、こちらのほうが社会に与えるインパクトは大きい。

Magentaは、人工知能に「人間に興味深いと思わせたり驚きを与えながら、一連のストーリーを伝えさせる」ことに挑戦しようとしている。それを実現するためには、人工知能には「人間が何をすれば喜ぶか」を想像し、自分と他人の感覚と照らし合わせる力が求められる。

つまり、Magentaは「共感力」への挑戦なのである。人工知能が共感力を獲得すると、人間ならではのホスピタリティーが求められる仕事が奪われてしまうだろう。

「芸術に対する評価を計算で評価するのは難しい」と述べている通り、完全な共感力を再現することはおそらくすぐには難しい。それでもプロジェクトの過程で、克服するための技術的進歩が生まれたり、人工知能と人間の共感のあり方に関する議論は進んでいくはずだ。

その先に浮かび上がるのは、人間の話し相手や友人にさえもなれる思いやりのある人工知能であり、「彼ら」と人間とが共存する新たな社会像なのだ。

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