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VRが実現する「未来の快感」と現実世界へのフィードバック

単純に言ってしまえば、快感とは「いい気持ち」のことである。素晴らしい風景を見つめている時、マラソンをしている時、好きな人といっしょにいる時、人によっては空を飛んでいる時もそうかもしれない。

では、今、その「いい気持ち」、つまり人の快感は、テクノロジーによってどこまでつくりだすことができるのだろうか?

最新のVR技術から見る「未来の快感」のつくり方を、Oculus RiftなどのVR技術のエヴァンジェリストであり、さまざまなソフトウェア開発を行うシージャイルにてゲームコンテンツなどの開発者としても活躍する島田侑治氏と議論する。テクノロジーの観点から快感を探求するテクノロジスト 大田章雄氏、CatalystのPR担当 川越も参加した。

シージャイル株式会社 VR室室長 島田侑治氏

「Oculus Rift DK1」の初期から個人でVR開発に携わり、さまざまなコンテンツを世に送り出してきた。VR開発の分野で書籍の執筆や各種イベントへの出展も行う。そうした経験を生かし、現在はシージャイル株式会社でVRの案件を専門に扱う事業部を設立。ノンゲーミング分野でのVRを活用したシステムの提供を行っている。Twitter:@yuujii  HP:http://2vr.jp

VRはコンテクストを伴う快感を実現する

テクノロジー、特にVRと快感というテーマにおいて、セックスに関連するトピックが盛り上がりを見せているのは周知のとおりだ。近い将来、最高のセクシャルな快感というものは、テクノロジーによってもたらされる可能性は大きい。市場規模、ニーズ、テクノロジーの進化、どれをとってもそのような未来が実現しない理由を探す方が難しい。

そもそも、人間の性というものは、他の動物と比較して非常に奇妙なものだとされている。妊娠する可能性が低い状態でセックスを楽しむ慣習も、内密な性交を好む傾向も、さらには人間の女性が経験する閉経ですらも、他の野生動物にとっては非常にユニークな特徴だ。このあたりについてはジャレド・ダイヤモンド著『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』に詳しい。そんな人間が、高度なテクノロジーを使ってより高度なセックスの快感を求めることは、非常に自然な成り行きとも言える。

では、人が快感を感じる時に必要な要素とは何なのだろう? そのひとつに、「リアリティ」がある。

大田:そもそも「リアリティ」とは何なのでしょう?特に視覚情報では、解像度が上がれば自ずとリアリティが得られる、というわけではないのかもしれません。例えばアニメやマンガなど、デフォルメされた表現を通した体験が、時に現実よりもリアルに感じられることもある。

島田:リアリティは、受け取る人の性格や性癖、さらには対象物と自分との「コンテクスト」にも左右されると思いますね。ただ、僕はVRにいろんな要素が加わり、複雑化することで、相対的にリアリティは上げることができると思います。

たとえば今の Oculus Rift は視覚と聴覚のリアリティに特化していますが、ここに触覚や嗅覚も加われば、相対的なリアリティはより上がっていくと思います。

また直近の課題として、スケールの問題は克服する必要があります。今の技術では、VR上ではモノや人が比較的、小さく見えると言われています。さらに対象物に近づくほどその影響は顕著になる。現実のスケール感と不一致を起こすことで、リアリティが損なわれる瞬間がありますね。

島田氏(中央)。「Oculus Rift」「PERCEPTION NEURON」を囲んで議論は進む。島田氏(中央)。「Oculus Rift」「PERCEPTION NEURON」を囲んで議論は進む。

VR空間内で対面する人の性格やコミュニケーションをどう実装するかも、快感を得る上で重要になるだろう。

島田:そういった点では、VRにおける人工知能は、これから大いに注目されていくでしょう。去年のクリスマスに、人工知能APIを使って、自分の好きなアニメキャラクターと会話をしてデートができるコンテンツをつくりましたが、好評でした。

島田氏が開発した人工知能APIを使ってアニメキャラクターとデートができるコンテンツ

人工知能と人間の関係性としては、十数年前に「人工無能」という、いわゆる「おしゃべりbot」のプログラムも話題になりました。ログを見ていると、人工無能を相手に一晩中人生相談をしていた人がいたほどです。

大田:あるいは性格や感情が「そこにある」と感じることで、ある種のコミュニケーションは成立してしまうのかもしれません。たとえば初音ミクと見つめ合うことのできるVR『Mikulus』を試してみると、目が合うと本当にドキドキします(笑)。人の形をしているものに見つめられると、感情が動きますね。自分の好きなキャラクターでもやってみたいと思いました。

島田:ちなみに快楽にかぎったことではありませんが、そのようなVRを介したコミュニケーションについては「罪の意識」に関する面白いエピソードがあります。

かつてVRでオンラインのFPS(ファースト・パーソン・シューティング・ゲーム:1人称視点のシューティングゲーム。銃を持って戦争することができる)をつくって、そこに実際に人を参加させたのです。設定の仕方によるのかもしれませんが、そのゲームは不思議なことにユーザー同士の殺し合いにならなかったのです。

リアリティのある仮想空間に、ネットを介した実際の人が参加することで、罪の意識もリアリティが増したのかもしれません。さらにバグを発見した参加ユーザー同士が協力的なプレイをして遊ぶ場面すらもありました。

VRなどテクノロジーが生み出したデジタルな空間において、「快楽」は技術的な課題さえ解決できれば自由自在に作り出すことができる。しかしそこに、人間や、人間のようなものを介在させることで、自分自身が意図しない、新たなコンテクストの上に成り立つ快楽が生まれる可能性が示唆された。

デジタルな快感がもたらす現実世界へのフィードバック

性に関連した快感以外に、私たち人間は豊かな文化的快感を日常的に味わっている。美しい風景に佇むことで、心が満たされるような経験をしたことは誰にもあるはずだ。であるならばVRで再現する複雑な快感は、セラピーとしての市場を開拓するのかもしれない。

大田:VR空間では、現実にはない場所に行くことができます。たとえばものすごく広い場所にただぼんやりと佇むことができます。無限に続く地平線や、広い空に囲まれた異空間で無心になっていると、静かな快感を感じますね。

島田:ストレスから解放される快感という点では、セラピーにも使えますね。たとえばノイズキャンセリングヘッドホンも聴覚ノイズの遮断です。VRは視覚ノイズを遮断することができます。かつて「Unreal Engine」というゲームエンジンをつかってリアリティのある森林をつくって、その中に佇んだことがあります。鳥の声が聞こえてくると、本当に森林浴をしているような気持ちになり、リアルなリラックス感を味わえます。

また、いわゆる「コミュ症」と呼ばれる人々へのセラピーツールもすでに存在しています。VR上のコミュニケーションで慣れをつくって「現実への橋渡し」をするわけです。

川越:現実への橋渡しで言うと、「デートの仕方」もVRで練習できたりすると良いのかもしれませんね。どんな場所に行き、どんな会話をして誘い、どんなことをするのかが練習できるような。例えばキスのタイミングも、練習をすれば自信を持って本番に臨めますよね。人見知りで恥ずかしがり屋の人でも、現実世界で良い結果を出すことができるようになるのかもしれません。

一度VR空間に没入すると、その人はほとんど現実世界に関わることができなくなる。一度VR空間に没入すると、その人はほとんど現実世界に関わることができなくなる。

人はVRの恋に落ちるのか?

生身の人間をVR世界に反映するためには、動きを計測してデータ化する、「モーションキャプチャー」が必要だ。今回、島田氏のラボで体験した中国企業のNoitomが開発したモーションキャプチャシステム「PERCEPTION NEURON」は、簡単な設定で、現実の自分をVR上に存在させることが可能。全身だけではなく、たとえば指の動きだけを取り込むなどのカスタマイズが簡易であることも魅力だ。

こうした技術を使えば、VR上で様々な快感や交流が生まれていく。それが、生身の人間の恋愛に発展することも考えられる。

大田:遠距離恋愛をしているカップルだと、実際に会わなくても良くなるのかもしれませんね?

島田:それは人それぞれかもしれませんが、会わなくてもお互いに満たされるものは増えると考えられるので、むしろ遠距離が理由で不倫される機会も減るのではないでしょうか。

川越:そうした恋愛の形が発展していった時、不倫の在り方も変わるのかもしれません。今は結婚している人は不倫をすることはできません。 でも、それは現実の話です。VR上の不倫を禁止することは、今はまだ現実的ではありません。もしVR上の不倫が許される未来が訪れたとしたら、人の恋愛観はどう変わってしまうのでしょうか。

島田:実はそれに近い恋人の間のトラブルは聞いたことがあります。VR上の不倫先が人ではない、ポルノなどの状況でも、配偶者に見つかると嫌がられるケースは聞きますね。さらに人であれば、VRではあるものの非常にリアリティのある場ですから、心までも奪われてしまう可能性があります。

配偶者がVRの中で出会った人に略奪される、といったことも起こるのだろうか?

川越:本当に好きな人ならVRの世界から私が現実世界へ略奪しますね(笑)

島田:前向きですね(笑)

川越:現実の方が、相手に与える影響は大きいですよ。勝算としては、VR上の恋人よりは現実の私にあると思いますけど。

島田:確かに今ではまだVR上のコミュニケーションは、現実ほど豊かに行うのは難しい。しかし、VR上の解像度が今後さらに上がり、考えていることが相手に伝わるようになったり、相手の気持ちを「察する」ようなことができるようになると、その勝算はどうなるかは分かりませんよ。

これまで、テクノロジーと快感というテーマにおいては、現実世界で味わえる快感をいかにしてデジタルでも再現するかという観点に終始していたように感じる。しかし今回の議論で、現実世界とは独立したデジタルならではの快感が存在しうること、さらにそれが現実世界にもフィードバックをもたらす可能性があることが明らかになった。きっとその先には恋人や配偶者といった人間関係、個々人の貞操観念における歪みなど倫理的な葛藤が待ち構えているのだろう。

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