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ベトナムのドローン映像技法に革新を!世界遺産の街で活動する日本人ドロニスト

2015年9月、ベトナム外務省はYoutubeにある動画を公開した。国内の観光名所や文化、経済発展について紹介するもので、日本語を含む9言語のヴァージョンがある。ここで注目すべきは、8分弱ある映像のほとんどでドローンによる空撮が使われている点。むしろ、ドローンの紹介動画だと言ってもいいくらいだ。

「ドローンが盛り上がることは嬉しいですが、この映像はよくもわるくもベトナムらしいなと思いますね」

この動画を見てそう答えてくれた人物は、ベトナム中部にある世界遺産の街・ホイアンで2011年から活動している映像編集者の中村浩二さん。中部地方といえば、ベトナム第3の都市・ダナンと、世界遺産の王宮跡が残る古都・フエがあり、昨年(2015年)は日本のテレビの旅番組などでもよく取り上げられたため、聞き覚えのあるひとも多いかもしれない。海・山・川に、都会的な街並みもギッシリと詰まった景色は、世のドロニストにとって必撮のスポットだと言ってもいいだろう。

今回、中村さんに、ホイアンを中心としたドローン撮影のノウハウや注意点、そしてドローン事情を伺った。

ドローンで撮影した中村さん近影ドローンで撮影した中村さん近影

ガジェット好きが多いベトナムでは、2年前からドローンが飛んでいた

「2014年の11月頃だったかな、DJIの「Phantom2」を購入しました。空撮の仕事があったか個人的に撮りたかったかは、どちらが先とも後とも言えないタイミングです。ただ、ここなら良い画が撮れるだろうなと思って」

いまから約一年前にドロニストデビューした中村さん。ホイアンに来たきっかけは「日本語教師の求人があったこと」だそうだが、もともと日本で番組制作会社のクリエイターとして働いていた経歴もあり、ホイアンでも教師と並行して映像編集者としての仕事をスタートさせた。ドローン入手までは、主に一眼カメラとGoProなどの撮影機材を使って、ツアー会社のPR映像や、企業のホイアンへの社員旅行の記録映像などの撮影と編集を請け負っていた。

ダナンとフエの市境にあるハイヴァン峠からの景色バイクツアーのPR映像より、ダナンとフエの市境にあるハイヴァン峠からの景色

購入前からすでに中村さんは、ホイアンやダナンでたびたび空を飛びまわるドローンを見かけていたとのこと。筆者もホーチミン市の展望台で、目前20メートルほど先を飛んでいるドローンを発見して面食らったことがある。強化ガラスの向こう、地上200メートルは超える高さを飛ぶ物体に強烈な違和感を覚えたものだ。そもそもベトナム人は「ガジェット好き」の傾向があり、収入の如何にかかわらず、ローンを組んでまで最新版iPhoneを手にする上に、最近はミニセグウェイとも呼ばれる「IO hawk」(類似品かもしれない)に乗っているひとも見かけるくらいだ。

ホイアンでの空撮のゴールデンルートは、トゥボン川に沿って旧市街から新市街へ抜ける道

「ホイアンでのドローン撮影にオススメのスポットは、トゥボン川に沿って旧市街から新市街へと抜けるルート。そこから広がる郊外の水田、そしてアンバンビーチですね。気をつけるべき点は、ヤシの木です。ドローンのプロペラは大抵の葉なら弾いてしまえますが、ヤシの葉は分厚くて逆に弾かれるんですよ。あれには参ったな」

ホイアンの旧市街は1999年に世界遺産として登録され、ベトナムの紙幣にも印刷されている日本橋(来遠橋とも呼ばれる)は1593年に架けられたと言われる。当時は日本や中国、オランダなどと交易していた外港の街であったため、現在でも旧市街には文化が融合した独自の建築様式の建造物が数多く存在している。ホイアンでドローン撮影を行うのであれば必撮のスポットと言いたいところだが、当然のことながらこれらを壊すと自己責任で収まる話ではない。建物の上空は避けて、場所が確保された道や川に沿って飛ばすことは前提だ。

ホイアン旧市街の空撮写真ホイアン旧市街の空撮写真

郊外に広がる水田に挟まれた道は、欧米人観光客に人気のサイクリングロードとして知られており、青々とした晴天の日にドローンで突き抜ければ爽快な映像が撮れることは間違いなし。中村さんによると、とくに自転車で水田の道から新市街へ入っていくひとの背中を、クレーンショットのように下から上に撮っていくと良い画になるそうだ。そのほか、白い砂浜が広がるアンバンビーチの魅力は、写真をご覧いただければ何も言うことはないだろう。

水田の道は日中、ひっきりなしに自転車が通る水田の道は日中、ひっきりなしに自転車が通る。空撮にはもってこいだ

アンバンビーチの白い砂浜とオーシャンブルーのコントラストアンバンビーチの白い砂浜とオーシャンブルーのコントラストが美しい

また、ホイアンといえば、毎月開催されるランタン・フェスティバルが有名だ。店や民家は明かりを落とし、街の象徴でもあるランタンのみの明かりで夜を過ごす。カメラの性能が高くなければどうしてもノイズが入ってしまう、という事情から中村さんは撮っていないそうだが、もし必要に足る機材があれば試してみてはどうだろう。月に一度の機会を狙わずとも、ホイアンの夜はいつであっても美しい。

ホイアンの夜この明かりの群れを上空から撮ると、さぞかし美しいはず

ただし気をつけるべきは、中村さんも話に触れた、南国・ベトナムですくすくと大きく育ったヤシの木だ。その葉は分厚く、ぶつかると弾き返されて墜落してしまう。ベトナムの中南部ではどこにでも生えているが、日本から来た場合は見落としがちになるので、くれぐれも注意が必要。プロペラガードの装備は必須だ。

トゥボン川に沈没したドローンを捜索する中村さんトゥボン川に沈没したドローンを捜索する中村さん。こちらの原因はヤシの葉ではなく、動作不良

「そして、何よりも気をつけるべき点は、軍関係の施設に近づかないことですね」

2015年9月に、中国の軍関係施設の周辺で、カメラ撮影をしていた日本人が当局に拘束されたことは記憶に新しい。ほかの国であっても、そのような場所で空撮を行うことは、個人の身にとって危険行為以外の何物でもない。ベトナムは中国と比べるとゆるいところがあるとはいえ、社会主義政権下で公安の権力は絶大だ。ホイアンの東にはチャム島といういまだ手付かずの自然が残る島があり、観光で訪れることも可能だが、ここには軍の施設がある。無事に日本に帰りたいのであれば、地上で思い出の写真を撮るくらいに留めておくことをオススメする。

五行山からの眺め五行山からの眺め。中部の街は海沿いに形成され、かつ山も多いためか、朝靄がかかりがち

リゾートホテルを上空からリゾートホテルを上空から

ベトナムでのドローン規制について

ここまで書いて、触れてこなかったが、それではベトナムのドローン規制は何にも無いのだろうか? 答えは「建前上はノーかもしれない」だ。ドローンが登場する前の2008年から、無人航空機(いわゆるラジコン)やバルーンなどの航空は各地域の関連機関に届け出る必要がある…ということになっている。

ただ、これはドローンの登場前に制定されたもので、多くのひとに知られないまま世界各地にドローン・ムーブメントが到来。2015年8月になってベトナムの大手メディアが取り上げ、再認識された格好だ。ここで、その情報を教えてくれたドローン事情に詳しいベトナム人の友人は語ってくれた。彼は大学の研究でドローンを使用していて、そのさなかでこの話題にぶつかったので、規制の事情についてはかなり調べたとのこと。

「結局、いまもみんな飛ばしているんですよね。前に観光エリアで飛ばしている外国人が警察に注意されていたけど、『ここでは建物が危ないから飛ばさないで』と話していたくらいだし、近所の人も毎週郊外へ飛ばしに行っているそうです。警察も、『見かけたら注意する』くらいで。規制内容もドローン登場前のものだったので、事例にドローンの名前も無ければ、飛行する高度や物体の大きさなどの詳細なルールは書かれていないんですよ」

ベトナムの法律はどの分野であっても曖昧で、「解釈次第」ということがよく言われており、それが役所の担当者による賄賂のやりとりや、その国に住む者にとっても線引きが分からないという状況につながっている。ましてやドローンは昨今、迅速な配達サービスが始まるだとか、銃器を装着した動画が公開されただとか、メリットとデメリットの両方をはらんでいる。アメリカや日本などの先進国がルール整備に苦慮している現状で、ベトナム政府が率先してルールを決めることは考えづらい。世界的にドローンの扱いが定まるか、ベトナム国内で大きな事故でも起きないかぎり、この状況は続くだろう。

少なくともこの国において、ドローンの立ち位置がいまよりも好転する決め手のひとつは、ドローン撮影を魅力的に感じてもらうこと。それは、ひいては、ベトナムのドロニストたち全員が果たすべき共通のテーマなのかもしれない。

最後に中村さんは、冒頭で紹介した観光PRの動画を例に挙げて、ベトナム全体で見られる撮影手法の課題について話してくれた。

「ドローンによる撮影は、通常のカメラやGoProなどで撮影した動画の中に時折差し込んでこそ、効果的だと思うんですよね。しかしベトナムの動画作品の多くは、日本でいうところの『わびさび』に欠けるというか、空撮の一辺倒だと感じます。その中で私は、『こういう使い方もあるんだぞ!』というメッセージを発信していきたいですね」

2009年に発見された、40階建てのビルが収まるという世界最大のソンドン洞窟。2015年4月に公開されたその内側の映像は、ドローンで撮られたものであり、豆粒ほどの人間が映ってこそ伝わるスケールの大きさは世界中を驚かせた。海沿いであり、山岳地帯も多いベトナムは、まだまだドローンの必撮スポットが眠っていることだろう。そのとき、ベトナム人ドロニストたちは被写体の魅力を引き出せるのか。中村さんに期待するものは大きい。

中村さんのサイト中村さんのサイトはこちら。実際に映像で観たい方はチェックしてみよう

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